体温調節を担う汗腺の三次元構造の可視化に成功

―熱中症や多汗症の解明や治療、次世代型制汗剤の開発に期待―

大阪大学大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座※1 の岡田文裕招へい教授、 蛋白質研究所寄
附研究部門の関口清俊教授、 大学院医学系研究科情報統合医学皮膚科学講座の片山一朗教授の研究グループは、 発
汗時における汗腺収縮の解明につながるヒト汗腺の三次元構造を可視化することに、 世界で初めて成功しました。

【研究成果のポイント】
◆汗腺の複雑な三次元構造の可視化に成功し、 発汗における汗腺収縮の構造を詳細に解明
汗腺収縮のしくみを解明するには複雑な汗腺の構造を理解する必要があったが、 従来の方法(二次元的な構造
解析)では収縮の理解につながる情報を得ることはできなかった
◆今回の成果によって発汗時の汗腺収縮のしくみが解明されれば、 熱中症や多汗症の解明や治療、 次世代型制
汗剤の開発に役立つことが期待される(図1)。

【概要】
大阪大学大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座※1 の岡田文裕招へい教授、 蛋白質研究所寄附研究部門の関口清俊教授、 大学院医学系研究科情報統合医学皮膚科学講座の片山一朗教授の研究グループは、 発汗時における汗腺収縮の解明につながるヒト汗腺の三次元構造を可視化することに、 世界で初めて成功しました(図1)。
汗腺の発汗における収縮のしくみを解明するには、 汗腺の構造を詳細に理解する必要があります。
しかし、 汗腺は複雑な三次元構造を持つため、 従来の二次元的な構造解析では汗腺構造を解明することができませんでした。
今回、 本研究グループは、 ヒト汗腺の発汗機能を司る汗腺のコイル構造※2 に着目し、 三次元構造解析に有用なホールマウント免疫染色法※3 を取り入れ、 汗腺の構造を解明しました。
この成果により発汗時の汗腺収縮メカニズムが解明されれば、 汗腺の発汗障害にあたる熱中症や多汗症の解明や治療、 次世代型制汗剤の開発にも役立つと期待されます。
本研究成果は、 米国科学誌「PLOS ONE」に、 6 月22 日(木)午前4 時(日本時間)に公開されます。

(図1:本研究で明らかにしたヒト汗腺の詳細な三次元構造)

 

 

【研究の背景】
温暖化や超高齢社会を背景に、 多汗症や熱中症の患者の増加が社会的問題となっています。 障害を起こした発汗機能を改善するためには、 発汗時に収縮を起こす汗腺の構造を理解する必要があります。 汗腺は分泌部と導管部で構成された1 本の管状の外分泌腺で、 分泌部で放出された汗が導管部を通って皮膚表面に排出されます。 汗腺の末端の分泌部と一部の導管部は、 糸くずが絡まるようにコイル状に複雑に折りたたまれ、 このコイル領域に存在する汗腺分泌部の一番外側の層を筋上皮細胞が取り囲み、 発汗時に収縮するとされています。 しかし、 汗腺は複雑な構造を持つため、 従来の解析では解明できませんでした。

【研究の内容】
今回、 本研究グループは、 ホールマウント免疫染色法を用いて、 ヒト汗腺の三次元構造の可視化に成功しました。 まず、 汗腺の複雑なコイル構造を理解するために、 ヒト汗腺を構成しているパーツごとに識別できるマーカーを選定しました。 それらのマーカーを用いて、 三次元的に汗腺を可視化したところ、 コイル構造内の分泌腺は、 チューブ自体がタオルを絞る様に捻れた立体構造をとっていました。 その分泌腺を覆う筋上皮細胞は、 分泌腺のチューブの捻じれ方向に沿って並んでいました。 さらに、 発汗刺激を行うために必要な神経も三次元的に可視化したところ、 神経は分泌腺の筋上皮細胞のみを取り巻いていました(図2)。 このような特徴的な三次元構造は他の分泌腺(乳腺や唾液腺)とは全く異なっており、 独自の分泌機構で汗を排出していることが予想されました。

(図2:ヒト汗腺分泌部の筋上皮細胞と神経線維の詳細な三次元配置)

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
本研究により、 発汗収縮に重要なヒト汗腺の三次元構造がより詳細に解明されました。 発汗障害の治療時には発汗収縮を解明することが不可欠です。 今後の研究で汗腺の収縮の基礎的なメカニズムがさらに解明されれば、 発汗に関連する病気(熱中症や多汗症)の解明や治療につながると期待 されます。 更には、 これまでは汗腺にフタをする機能が中心であった制汗剤の領域で、 汗腺に直接作用することにより、 汗の量を制御することができる新たな機能をもった制汗剤の提案の可能性が示唆されます。

【特記事項】
本研究成果は、 2017 年6 月22 日(木)午前4 時(日本時間)に、 米国科学誌「PLOS ONE」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:“Three-dimensional Cell Shapes and Arrangements in Human Sweat Glands as Revealed by
Whole-mount Immunostaining”
著者名:Ryuichiro Kurata1, 2, 3*, Sugiko Futaki3, Itsuko Nakano3, Fumitaka Fujita1, 2, Atsushi Tanemura4,Hiroyuki Murota4, Ichiro Katayama4, Fumihiro Okada1, 2, and Kiyotoshi Sekiguchi3,**
* 筆頭著者
** 責任著者
1 大阪大学 大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座
2 株式会社マンダム 基盤研究所
3 大阪大学 蛋白質研究所 寄附研究部門
4 大阪大学 大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学講座
なお、 本研究は、 日本学術振興会 科学研究費助成事業16K19721(体温調節を担うヒト汗腺器官のコイル収縮
部とその近傍の血管・神経の三次元的構造解析)の助成を受け実施されました。

【用語説明】
※1 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座
大阪大学大学院薬学研究科と、 株式会社マンダムが2015 年6 月に設置した共同研究講座。 共同研究講座は民間企業等からの出資を受け入れ、 大学の研究者と出資企業の研究者が共通の課題について、 対等の立場で共同研究を行うことにより、 優れた研究成果を獲得することを目指す。 本共同研究講座は、 大阪大学内に設ける独立した研究組織で、 大阪大学とマンダムとが協議しながら、 柔軟かつ迅速に研究活動を行うことを特徴とする。
※2 汗腺コイル構造
汗腺は1 本の管状でできており、 汗腺の末端は糸くずが絡まるようにコイル状に複雑に折りたたまれ、 このコイル領域に存在する汗腺分泌部の一番外側の層を筋上皮細胞が取り囲み、 発汗時に収縮するとされている。
※3 ホールマウント免疫染色法
組織や器官を丸ごと染色して細胞の空間的な分布を調べる方法。

【研究者のコメント】
進化の過程で、 ヒトは体温上昇を避けるために、 体中に汗腺を保有し、 発汗によって体温を調節する事を選択しました。 これは、 他の動物では見られない機能です。 この進化的に未熟な汗腺は、 生活環境で発汗機能が変化しやすく、 社会的な問題(温暖化による熱中症、 多汗によるQOL 低下等)になっています。 しかし、 このような発汗障害の原因解明や治療に必要な、 発汗機能の評価モデルが、 他の皮膚付属器官と比べて少ないのが現状です。 このようなヒト皮膚組織のなかで特徴的な汗腺に関する研究は、 基礎を固めていくことで、 その上に様々な知見や技術が積み上がり数年後の応用につながると信じ、 これまでヒト汗腺細胞の単離技術の確立やヒト汗腺幹細胞の同定、 汗腺三次元構造解析(本プレスリリース)に取り組んできました。 今後もヒト汗腺の機能障害を克服するために、 この研究をさらに発展させていきたいと思います。

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